西鉄の名島駅から徒歩15分。都市高速の下をくぐり海岸沿いを歩いていくと、右手に大きな鳥居。名島神社です。2つの鳥居を抜け、階段をのぼり本殿へ。ふと後ろを振り返ると、左右に生い茂る緑がつくるアーチの中に、輝く海が見えました。これは絶景です。
さて今日の記事は、名島神社を中心とした名島校区の歴史と魅力についてのレポートです。こちらのお二人にお話をうかがいました。
――押本さんはこの神社に新しく来られた神職さんです。
眞田 この神社は香椎宮と非常に関係が深くて、古い時代からずっと香椎宮の宮司さんが来てここを守っていました。でも神社の行事は、例えば「豊かな実りを祈願する」という意味合いを持つものがあって、全国どこも同じような期日にお祭りがあるんですよ。だから来てもらうのも大変ですし、名島神社に一人神職さんを置きたいということで、初めて押本さんにお願いすることになりました。
押本 こちらに来る前は山口県の神社にいました。縁あってお話をいただいて、地元に戻って来られて嬉しかったですね。私の出身は、ここ名島です。小さい頃は名島神社のお祭りで、神輿を担いだり子ども相撲大会に参加したりしました。お参りにもよく来ていて、神社の空気がずっと好きでした。
――私もすぐにこの神社の雰囲気が好きになりました。ほんとうに景色もいいですよね。
眞田 昔から風光明媚な場所であったという証拠が、「正調博多節」という民謡の中にあります。「筑前名所は名島に宰府、芥屋の大門の朝嵐」というのがその一節ですが、筑前の名所として名島が一番最初に挙げられているでしょう。
押本 春は桜がとてもきれいです。城址公園から一段低い崖のところから幹がきていて、桜の花が地を這うように横長く連なって咲くんです。それが龍のふせている姿のようなので「臥龍桜」といいます。
――ここはいつから名島という地名なんでしょうか?
眞田 名島は四世紀後半、神功皇后が三韓遠征の船出をした場所だと言われています。船出をするとき、神功皇后が軍勢の名前を呼んで船に乗せたことが「名島」という地名の起源になったと伝承されています。神功皇后がその三韓遠征から帰ってきて建てたのが、この名島神社です。
鳥居を出た海岸の方には「縁の石」という石があります。懐妊していた神功皇后が腰かけて、そこを足場にして船に乗ったという言い伝えのある石です。だから、この石を触ったら安産になる、縁遠い人は縁づくといわれています。
その近くには「帆柱石」というのがあります。神功皇后が三韓遠征に使った船の帆柱が化石になったものだと言い伝えられています。
押本 これは実際には、3500万年前の樫の木の化石です。国の天然記念物に指定されています。
――そんな由緒があったとは知りませんでした。名島神社はそれからずっとここにあるのですか?
眞田 豊臣秀吉が九州平定のとき、この地に九州全体をおさめるお城をつくるため、社殿を下の海岸に移してしまった時期もありました。今も三の丸団地とありますが、名前を見てわかるように、その辺りも含め丸ごと砦にしてしまったんですね。金箔の残るしゃちほこが発掘されるほど立派なお城だったようですが、福岡城に人が移ると、残念ながらして名島には誰もいなくなってしまいました。名島城の廃城です。
その後の時代の名島には東洋一といわれた火力発電所や水上飛行場ができ、そしてそれも消え、今の景色になっています。神社のすぐ上の城址公園に、名島の歴史をパネルで展示してあるのでぜひ見てみてください。
――こういった名島の歴史は、若い人たちや子どもたちもよく知っているんですか?
眞田 かれこれ7~8年くらい毎年、授業の一環として小学生に名島の歴史のお話をしていますが、小学生は非常に関心を持っていますね。
押本 小学校の児童さんはよく神社にも来ます。質問をしに来たり、スケッチをしに来たり。でもいま名島には新しいマンションがたくさん建って、他のところから来られた方が多くなっています。そういった方にはやはり、名島の歴史はあまり知られていないのではないかと思っています。
眞田 平成12年ころ、名島の商店街のお店が減り始めました。これは困ったなと思い、名島で何か活動したいと始めたのが「歴史の会」。商工会がそれを名島の振興の材料の一つとして使ったんですが、やっぱり歴史だけではなかなか地域はよくならない。名島の商店街をどうにかしたいと商工会の人とお話をしましたが、子どもたちが跡を継がないから、残念ながら私の代でお店は終わりなんですよという人がほとんどでした。そればかりはもうどうしようもないけれど、ただとにかく歴史だけでもつないでいこうという気持ちです。だから今日も、歴史のことをたくさんお話しました。
――ありがとうございました。興味深いお話ばかりでしたが、最後に地域の皆様へのメッセージをお願いします。
押本 「心が落ち着く」と、地域の方々はここの風景がお好きみたいで。喧騒を離れられる場所なので、ただしばらくぼーっとして帰られる方もいらっしゃいます。そんなふうに親しんでいただいている神社ですから、新しく名島に来た方にもたくさん神社のこと、名島のことを知っていただいて、気軽にお参りにきていただきたい、そして心を休めていただけるような場所になりたいと思います。そして地域の方に参加していただける夏と秋のお祭りのときには、たくさんの人で賑わうのを楽しみにしています。